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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)4号 判決 1975年12月25日

東京都荒川区西尾久五丁目二八番八号

原告

石田松四郎

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

松本津紀雄

東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号

被告

荒川税務署長

右訴訟代理人弁護士

葛西宏安

右指定代理人

室岡克忠

根本孟郎

杉本武

主文

被告が昭和四四年三月二六日原告の昭和四一年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、所得金額七八三、六四四円を超える部分を取り消す。

被告が昭和四四年三月二六日原告の昭和四二年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、所得金額一、一九〇、九七九円を超える部分を取り消す。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一、 当事者の求めた裁判

一  原告

被告が昭和四四年三月二六日原告の昭和四一年分及び昭和四二年分の所得税についてした各更正及び各過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、 原告の請求原因

一  本件処分の経緯等

原告は、ポリエチレン製袋の加工を業とするいわゆる白色申告者であるが、昭和四一年及び昭和四二年の各年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の各更正及び各過少申告加算税の賦課決定(以下、右各更正を「本件各更正」と、右各過少申告加算税の賦課決定を「本件各決定」という。)並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表(一)記載のとおりである。

二  本件処分の違法事由

しかし、被告がした本件各更正(いずれも審査裁決により維持された部分。以下同じ。)のうち、各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがって、また、本件各更正を前提としてされた本件各決定も違法である。

よって、本件各更正及び本件各決定の取消しを求める。

第三、 請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

二  本件各更正及び本件各決定の適法性

原告の昭和四一年分及び昭和四二年分の各年分の所得金額は、それぞれ一、一四六、一八四円、一、八六四、九八六円であるから、いずれもその範囲内でされた本件各更正及びこれを前提とする本件各決定に違法はない。

1  被告は、原告の本件係争各年分の事業所得について調査するため、所部の職員を四回にわたって原告方に臨店させたところ、最初臨店の際は、原告本人が不在であったため十分な調査ができず、その後の臨店の際には、原告が民主商工会の事務局員等の調査への立会を執拗に要求する等して調査に全く非協力的な態度を示し、更に、帳簿は備付けていない旨答え、結局、右各年分の帳簿書類等を提示しなかった。かかる状況から、実額による所得金額を算出することは不可能であったため、被告は、やむなく原告の取引先に対する反面調査の結果判明した原告の右各年分の収入金額を基礎に算出所得金額及び雇人費を推計により算定し、その所得金額を次のとおり算定したものである。

2  原告の本件係争各年分の所得金額の計算内訳は別表(二)の(1)及び(2)記載のとおりであり、その算出根拠は次のとおりである。

(一) 収入金額 各年ともポリエチレン製袋の加工による賃収入の合計額であり、取引先別の収入金額の明細は、別表(三)の(1)及び(2)記載のとおりである。

(二) 算出所得金額 被告は、各年ごとに、荒川区及び同区に近隣する北区、足立区、墨田区及び葛飾区内に事業所を有し、ポリエチレン製袋加工を業とする個人事業者のうちから、青色申告書を提出するもので、収入の大部分が賃加工収入であり、かつ、その年分の収入金額が一〇〇万円程度以上の同業者を抽出したうえ、各年分ごとに、別表(四)の(1)及び(2)のとおり、右同業者の収入金額に対する算出所得金額の割合の平均値(以下「平均所得率」という。)を求め、これを(一)の原告の各年分の収入金額に乗じて算出したものである。

(三) 特別経費 別表(二)の(1)及び(2)記載のとおりであり、うち右各年分の雇人費及び減価償却費、昭和四一年分の建物除却損並びに昭和四二年分の支払地代の算出根拠は次のとおりである。

(1) 雇人費 各年分ごとに、別表(四)の(1)及び(2)のとおり、前記同業者の収入金額に対する雇人費の割合(以下「雇人費率」という。)の平均値(以下「平均雇人費率」という。)を求め、これを(一)の原告の各年分の収入金額に乗じて算出したものである。

(2) 減価償却費 原告が事業用及び住居用に供している肩書地所在の建物(昭和四一年においては建て直しのため一部取り壊した部分を除いたもの(以下旧建物という。)、昭和四二年においては右建て直し部分が加わったものである。以下同じ。)全体についてその減価償却費を計算すると昭和四一年は四、六〇七円、昭和四二年は旧建物部分が四、六〇七円、新築部分が一一九、六九一円合計一二四、二九八円であり、各年とも事業関連部分を七〇パーセントと認め、各金額に右割合を乗じて算出したものである。

(3) 昭和四一年分の建物除却損

原告は昭和四一年中に事業用及び住居用として使用していた建物の一部を建て直しのため取り壊したが、取り壊し部分に係る未償却残額(除却損)は一四、三五一円であり、この金額に取り壊し部分全体に対する事業関連部分の割合七〇パーセントを乗じて算出したものである。

(4) 昭和四二年分の支払地代 原告が右建物の敷地として使用している賃借土地の地代は一五、一二〇円であり、右土地の事業関連割合は右建物の事業関連割合と同じと認められるので、右金額に七〇パーセントを乗じて算出したものである。

(四) 所得金額 昭和四一年分は(二)算出所得金額から(三)特別経費及び別表(二)の(1)記載の専従者控除額を控除した金額であり、昭和四二年分は(二)算出所得金額から(三)特別経費を控除した金額である。

第四、 被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告の主張に対する認否

被告主張第三の二1の事実のうち、被告所部の職員が原告方に臨店したことは認めるが、その余の事実は争う。

同2の(一)の事実のうち、昭和四一年中における三瑞工業株式会社、和光プラスチック株式会社、山東化成株式会社からの各収入金額及び昭和四二年中における三瑞工業、和光プラスチックからの各収入金額は認めるが、その余は争う。同(二)の事実は争う。同(三)の事実のうち、昭和四一年分の支払地代及び支払利息、昭和四二年分の支払利息、原告使用建物全体につき算定された係争各年分の減価償却費並びに原告使用建物のうち昭和四一年中の取り壊しに係る部分の未償却残額の各金額は認めるが、その余は争う。同(四)の事実のうち、専従者控除額は認めるが、その余は争う。

二  原告の反論

1  被告主張第三の二1について

原告は被告所部の職員に対し、調査の理由を尋ね、また、民主商工会の事務局員立会いのうえで調査を受けたいと申し出たところ、被告所部の職員はこれを拒否し、自ら調査をせずに立ち去ったのであって、原告側から正当な調査を拒否した事実は全くない。したがって、被告は調査を尽していないというべきで、本件推計課税は推計の要件を欠く。

2  被告主張の推計方法は、次の点で合理性を欠く。

(一) 被告は同業者を抽出するに際して、その業者が原告のようにポリエチレン製袋加工を専業としているかどうかなど、その具体的業態を顧慮していないから、被告のした同業者の選択は合理性がない。

(二) 原告は、ポリエチレン製袋加工業を始めたのが時期的に遅かったため、独自の得意先がなく、もっぱら宇野武春等の下請けとして稼働し、また他の取引先に対する加工賃も下請け並みの低さであった。このように原告には他の同業者とは到底比較できない特殊事情がある。

(三) 被告は本件係争各年分の雇人費を同業者の平均雇人費率(昭和四一年二一・三七パーセント、昭和四二年一七・四九パーセント)によって推計している。

しかし、原告の場合、原告自身が老令で十分働くことができず、妻石田ソメオも身体障害者で稼動困難な状態にあったから、常に雇人の労働に頼らざるを得ず、したがって、収入金額に対する雇人費の割合が高く、現に原告の昭和三八年ないし昭和四〇年の各年分の所得税について東京国税局長がした審査裁決による原告の右各年分の収入金額及び雇人費は別表(五)記載のとおりであり、右各年とも雇人費は収入金額の約三分の一に及んでいる。このような原告の実情に照らせば、営業状態の同一性が担保され難い同業者の平均雇人費率で原告の雇人費を推計するのは合理性がなく、かえって同一事業主である原告の近接する年度の雇人費率によって、本件係争各年分の雇人費の推計を行うのが、より合理的である。

3  減価償却費ないし建物除却損について

原告が昭和四一年中に一部取り壊した建物は、木造で一階建部分と二階建部分(二階建部分は一、二階とも七坪である。)とから成立っていたが、このうち全部作業場として使用していた一階建部分を取り壊して、同所に鉄骨二階建一、二階とも一六坪の作業場及び従業員宿泊所を新築した(昭和四二年一月完成)。そして、右建て直しの前後を通じ原告が住居として使用していたのは、木造二階建部分のうち一階七坪のみであるが、この一階部分も製品や原料置場として使用していたから、結局、本件係争各年とも原告の右各建物はすべて事業用に供されていたとみるべきである。したがって、昭和四一年分の減価償却費は四、六〇七円、建物除却損は一四、三五一円、昭和四二年分の減価償却費は一二四、二九八円というべきである。

4  昭和四二年分の支払地代について

支払地代は、昭和四二年一月から六月まで月額一、八〇〇円、七月から一二月まで月額二、一六〇円、総額二三、七六〇円である。そして、原告の前記建物が全部事業用に供されているとみるべきことは前項3記載のとおりであり、したがって、借地である右建物の敷地も全部事業用に供されているとみるべきであるから、右支払地代は全額事業に必要な経費であるというべきである。

第五、 原告の反論に対する被告の認否及び再反論

一  原告の反論に対する認否

原告の反論2の事実のうち、原告の妻石田ソメオが身体障害者であること、原告の昭和三八年ないし昭和四〇年の各年分の所得税について、東京国税局長がした審査裁決による原告の右各年分の収入金額及び雇人費が、原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

同4の事実のうち、昭和四二年七月から一二月までの支払地代が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

二  被告の再反論

東京国税局長のした前記裁決による原告の昭和三八年ないし昭和四〇年の各年分の雇人費は、いずれも帳簿書類等の直接の資料に基づき実額で算出されたものではなく、昭和四〇年分は原告の概数による申立てをそのまま認容したものであり、また、昭和三八年及び昭和三九年の各年分は、昭和四〇年分の雇人費率を基に推計により算定されたものであるから、右各年の雇人費率を基礎に本件係争各年分の雇人費を推計するのは合理的でなく、したがって、被告は右のような推計方法を採用しなかったものである。雇人費を実額で算定するに足る資料の提示がない場合において、これを同業者の平均雇人費率によって推計することは合理的というべきである。

第六、 証拠関係

一  原告

1  提出・援用した証拠

甲第一ないし第六号証、証人石田ソメオ、同守屋黎子の各証言及び原告本人尋問の結果

2  乙号証の認否

乙号各証の成立はいずれも知らない。

二  被告

1  提出・援用した証拠

乙第一ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、第二四号証の一、二及び証人神谷晴久、同宮川隆元、同本多平蔵、同石塚孝、同麻喜力、同田上藤男、同矢田儀徳の各証言

2  甲号証の認否

甲第四号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、請求原因一の事実(本件処分の経緯等)については、当事者間に争いがない。

二、原告は、本件各更正のうち、各年分の所得金額が原告の確定申告に係る金額を超える部分は、被告の過大認定であって違法であり、したがって、また、本件各更正を前提としてされた本件各決定も違法である旨主張するので、以下この点について判断する。

1  推計課税の必要性

証人神谷晴久、同宮川隆元、同石田ソメオの各証言及び原告本人尋問の結果(証人石田ソメオの証言及び原告本人尋問の結果のうち後記採用しない部分を除く。)を総合すると、被告所部の職員は、原告の昭和四一年分及び昭和四二年分の所得税の調査のため、昭和四三年九月三〇日以降四回にわたり原告方に臨店し、原告の帳簿書類等の提示を求めたが、最初の臨店の際には原告が在宅していなかったためその提示を受けることができず、その後の臨店の際にも原告は同職員に対し、調査の理由を問うたうえ民主商工会の事務局員の調査に対する立会い等を要求し、同職員が、本件調査は原告のした申告が正しいか否かを調査するものであること、民主商工会の事務局員等の立会いは認められないことを告げて調査に協力するよう求めたが、原告はこれに応ぜず、結局、原告から右各年分の帳簿書類ないし原始記録の提示は受けられなかったこと、原告は、その後における本件各更正等の不服申立ての審理の過程においても、所部の職員の臨店にもかかわらず、税務署長に会わせろとか、民主商工会員の立会を認めろとか要求するのみで、帳簿書類ないし原始記録の提示をしなかったことが認められる。証人石田ソメオの証言及び原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、原告の本件系争各年分の所得金額については、これを実額で算定するに必要な帳簿書類ないし原始記録が提示されず、被告所部の職員のした調査についても原告の協力が得られなかったのであるから、被告が、原告の取引先等の反面調査によって把握した原告の収入金額を基礎に右各年分の所得金額を推計等により算定したことになんら違法はないといわなければならない。

2  所得の算定について

(一)  収入金額について

原告のポリエチレン製袋加工による本件係争各年分の収入金額のうち、昭和四一年中における三瑞工業、和光プラスチック、山東化成からの収入金額が別表(三)の(1)記載のとおりであり、昭和四二年中における三瑞工業、和光プラスチックからの各収入金額が別表(三)の(2)記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、証人神谷晴久の証言により真正に成立したものと認める乙第一、二号証、第六、七号証、第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第三、四号証、第八、九号証及び証人神谷晴久の証言を総合すると、原告の、昭和四一年中における石島化学工業株式会社、宇野化工株式会社、宇野武春及び山美産業有限会社からの収入金額は別表(三)の(1)記載のとおりであり、昭和四二年中における石島化学工業、山東化成、宇野化工、宇野武春及び宇野正勝からの収入金額は別表(三)の(2)記載のとおりであることが認められる。また、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第五号証によれば、宇野正勝が昭和四一年中に原告ないし石田ソメオに小切手により支払いをした金額合計は一五三、四八一円(別表(三)の(1)記載のとおり)であることが認められるところ、石田ソメオが原告の妻であることは当事者間に争いがなく、証人石田ソメオの証言によると、同女は原告の事業を手伝うのみで独立の事業を営んでいる者ではないことが明らかであるから、右金額は、すべて原告の宇野正勝からの収入金額であると認めるのが相当である。原告本人尋問の結果のうち、右各認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の認定によれば、原告の各年分の収入金額は、右各取引先別の収入金額(取引金額)の合計、すなわち昭和四一年分三、〇〇二、八〇一円、昭和四二年分四、二二四、九一〇円となる。

(二)  算出所得金額

一定の事業を営む者の算出所得金額を実額によって把握することができない場合において、同種経費を支出するのを通常とする同業者の平均所得率でその算出所得金額を推計することは、特別の事情がない限り合理性があるというべきである。

そこで、本件についてこれをみるに、証人本多平蔵の証言により真正に成立したと認める乙第一一号証、乙第一二号証の一、二、証人石塚孝の証言により真正に成立したと認める乙第一三号証、第一四号証の一、二、証人麻喜力の証言により真正に成立したと認める乙第一七号証、第一八号証の一、証人田上藤男の証言により真正に成立したと認める乙第二一号証、第二二号証の二、証人矢田儀徳の証言により真正に成立したと認める乙第二三号証、第二四号証の一、二に、証人本多平蔵、同石塚孝、同麻喜力、同田上藤男、同矢田儀徳の各証言を総合すると、被告は、本件係争各年ごとに、同業者として荒川区及び同区に近隣する北区、足立区、墨田区及び葛飾区に事業所を有し、ポリエチレン製袋加工業を営む個人事業者のうちから、青色申告書を提出するもので、収入が賃加工収入によるもの(大部分の材料の無償支給を受ける賃加工業者)であり、かつ、その年分の収入金額が一〇〇万円以上のものすべてを正確に抽出したこと、右同業者について各年の確定申告に係る収入金額及び算出所得金額を調査し、これにより各年の平均所得率を求めた結果は、別表(四)の(1)及び(2)記載のとおりであることが認められる。

右認定の事実によれば、被告が本訴において主張する同業者の平均所得率算出の対象となった同業者は、原告と同様荒川区及びその周辺に事業所を有する同業者であることが明らかであり、同業者の抽出基準に合理性があり、その抽出作業は正確であり、これについて被告の恣意の介在は認められず、かつ、被告の調査は青色申告書に基づいており、その抽出数も同業者の個別性を平均化するに足るものということができるから、このような同業者の平均所得率は、正確性及び一応の普遍性が担保されているというべきである。したがって、右同業者の平均所得率を基礎に原告の所得を推計することは合理的というべきである。

原告は、被告のした右推計は合理的でないと主張し、その理由として、被告は、同業者を抽出するに際し、その業種が原告のようにポリエチレン製袋加工業を専業としているか等の具体的な業態を顧慮していないこと、また、原告の事業は、下請けが主であり、その加工賃は他の同業者とは比較にならないほど低いことを掲げる。

しかしながら、前掲各証拠によれば、同業者の抽出作業は、いずれも大部分の材料を無償支給を受けているいわゆる賃加工業者に限ってされたものであることが認められるから、右各同業者は原告と業態を同一にするポリエチレン製袋賃加工を専業とするものであると認めるのが相当である。

また、下請けが主である等の事情は、前記同業者の平均所得率の中に捨象されるというべきであり、いまだ被告のした右平均所得率による算出所得金額の推計を不合理ならしめるものとはいえないし、他に被告のした右推計を不合理ならしめる特殊事情につき原告の主張立証はない。したがって、原告の右主張は理由がない。

そこで前記各年分の収入金額に平均所得率である昭和四一年六六・二六パーセント、昭和四二年六六・八九パーセントをそれぞれ乗ずると、原告の各年分の算出所得金額は、昭和四一年一、九八九、六五五円、昭和四二年二、八二六、〇四二円となる。

(三)  特別経費

特別経費のうち、昭和四一年分の支払地代及び支払利息の各金額が別表(二)の(1)記載のとおりであること、昭和四二年分の支払利息の金額が別表(二)の(2)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。そこでその余の特別経費の額について検討する。

(1) 雇人費

被告は、原告の本件係争各年分の雇人費を前記同業者の平均雇人費率によって推計したと主張する。

しかしながら、小規模の個人事業者の場合、雇人費は、事業主の家族で事業に従事するものの有無及びその数、事業主及び右家族の稼動能力等により、たとえ同一業種であり、かつ収入金額が同程度の者の間においても、かなりの差異が生ずることは、見易い道理であり、前掲乙第一二号証の一、二、第一四号証の一、二、第一八号証の一、第二二号証の二、第二四号証の一、二により認められる別表(四)の(1)及び(2)の各同業者の雇人費率の間にもかなりの差異が認められる。そうだとすると、前記業種及び収入金額等のみを基準に同業者を抽出して算定された前記平均雇人費率により原告の雇人費を推計することは合理的なものとはいえない。

そこで他の推計方法につき検討すると、原告の昭和三八年ないし昭和四〇年の各年分の所得税について東京国税局長がした審査裁決による原告の右各年分の収入金額及び雇人費が別表(五)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一ないし第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、右のうち、昭和四〇年分の雇人費は、帳簿書類等に基いて実額で算出されたものではなく、原告の申立てにかかる金額をそのまま認容したものであり、また昭和三八年及び昭和三九年の各年分の雇人費は、いずれも右審査裁決による昭和四〇年の収入金額と雇人費の割合、すなわち雇人費率を基礎に推計したものであることが認められる。そして、このように昭和四〇年の雇人費につきこれを申立てどおり認容し、かつこれを基礎に昭和三八年及び昭和三九年の各年分の雇人費を推計している以上、東京国税局長は、その金額につき少くとも一応の検討を遂げて、これを是認したものと推認すべきである。そうだとすれば、昭和四〇年の右雇人費は実額によるものではないが、これが過大又は過少であったと認めるに足る証拠もなく、かつ他により合理的な推計方法が認められない以上、昭和四〇年と比較し特段に営業形態等の変化があったとは認められない本件係争各年度についても、右審査裁決による金額に基づいて算定された原告の昭和四〇年の雇人費率によって雇人費を推計するほかはないものというべきである。この点に関する被告の主張は採用できない。

そこで、前記各年分の収入金額に右原告の昭和四〇年の雇人費率三三・三パーセントを乗ずると、原告の各年分の雇人費は、昭和四一年九九九、九三二円、昭和四二年一、四〇六、八九五円となる。

(2) 減価償却費

原告の肩書地所在の建物全体についてその減価償却費の額が、昭和四一年は四、六〇七円、昭和四二年は旧建物部分四、六〇七円、新築部分一一九、六九一円、合計一二四、二九八円となることは、当事者間に争いがない。

そこで右建物の事業関連割合について検討するに、原告本人尋問の結果によれば、原告が昭和四一年中に使用していた建て直し前の建物は、木造で一階建部分と二階建部分(二階建部分は一、二階とも七坪である。)とから成立っていたが、このうち全部作業場として使用されていた一階建部分(一七坪)を取り壊して、昭和四二年一月同所に鉄骨二階建(一、二階とも一六坪)の作業場等を新築したこと(原告が右時期に従前の建物の一部を取り壊して、二階建の建物を新築したことは、当事者間に争いがない。)、昭和四一年中旧建物は、原告ら家族の住居及び材料、製品の置場等として使用されていたこと、昭和四二年中旧建物の一階部分は家族の住居及び材料、製品の置場として、二階部分は物置として、新築建物の一階部分は作業場として、二階部分は家族の住居及び従業員の居住用としてそれぞれ使用されていたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、昭和四一年中において旧建物が原告の事業用に供されていた部分の全体に対する面積比は七〇パーセントを超えることがなく、昭和四二年中において旧建物及び新築建物が事業用に供されている部分の同面積比は各七〇パーセントを超えることがないと認めるのが相当である。

そこで、前記建物全体について計算された各減価償却費に右各建物の事業関連割合を乗ずると、原告の各年分の減価償却費は、昭和四一年三、二二四円、昭和四二年は旧建物に係る分三、二二四円、新築建物に係る分八三、七八三円合計八七、〇〇七円となる。

(3) 昭和四一年分の建物除却損

原告使用建物のうち前記昭和四一年中の取り壊しに係る部分の未償却残額が一四、三五一円であることは当事者間に争いがなく、右取り壊しに係る部分が従前全部事業用として使用されていたことは前認定のとおりである。したがって、原告の昭和四一年分建物除却損は一四、三五一円と認めるのが相当である。

(4) 昭和四二年分の支払地代

原告が前記建物の敷地として賃借している土地の地代が昭和四二年七月から同年一二月まで月額二、一六〇円であったことは当事者間に争いがない。また、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第四号証及び原告本人尋問の結果を総合すると、同年一月から同年六月まで右地代は月額一、八〇〇円であったことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そして右土地の事業関連割合は、前記建物の事業関連割合と同一と認むべきところ、前記(2)認定のとおり、昭和四二年中における前記建物(旧建物及び新築建物)の事業関連割合は、七〇パーセントと認められるから、同年中の地代総額二三、七六〇円に右事業関連割合七〇パーセントを乗じると原告の同年分の支払地代は一六、六三二円となる。

以上の認定によれば、原告の各年分の特別経費の額は、昭和四一年一、〇六三、五一一円、昭和四二年一、六三五、〇六三円となる。

(四)  所得金額

そこで、各年とも前記算出所得金額から前記特別経費の額を控除し、昭和四一年分については更に当事者間に争いのない専従者控除の額を控除すると、原告の各年分の所得金額は、昭和四一年七八三、六四四円、昭和四二年一、一九〇、九七九円となる。

3  そうすると、本件各更正のうち、昭和四一年分については所得金額七八三、六四四円を超える部分、昭和四二年分については所得金額一、一九〇、九七九円を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件各決定のうち、右各所得金額を超える部分に対応する部分は違法である。

三、以上によれば、原告の本件各請求は、本件各更正及び本件各決定のうち、昭和四一年分については所得金額七八三、六四四円を超える部分、昭和四二年分については所得金額一、一九〇、九七九円を超える部分の各取消しを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 時岡泰 裁判官 青柳馨)

別表(一)

<省略>

別表(二)の(1)

昭和四一年

<省略>

<省略>

別表(二)の(2)

昭和四二年

<省略>

別表(三)

(1) 昭和四一年

<省略>

(株)は株式会社、(有)は有限会社をそれぞれ意味する。

(2) 昭和四二年

<省略>

別表(四)の(1)

昭和四一年

<省略>

別表(四)の(2)

昭和四二年

<省略>

別表(五)

<省略>

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